高気密高断熱(程度は様々ですが)の住まいが随分、一般に浸透してきました。もともとは、古民家を見れば分かる通り、高気密高断熱とは無縁の生活をしてきましたので、建築に関わる方々でさせも…
こんなに高気密高断熱にしてもいいのか?
と言われることも珍しくありませんでした。こうした声は、建築関係者だけではなく、一般の方からもたくさん挙がったためか、「高気密高断熱のメリット」は随分語られるようになりました。
具体的には、次の様なメリットがあります。
- 家が長持ちする(結露にやられにくい)。
- 光熱費をおさえることができる(冷暖房が効きやすい)。
- 熱中症(夏)やヒートショック(冬)の被害から身を守りやすい。
- 防音効果が高い。
ただ、こうしたメリットが得られると同時に、実はデメリットも存在しますが、あまり語られることはありません。
そこで、ここでは、
- 高気密高断熱住宅のデメリット
- デメリットを抑えながら高気密高断熱住宅と付き合う方法
を紹介します。もちろん株式会社ハウス工房でも、高気密高断熱の住まいを新築することが多いですが、ここでお伝えするデメリットも十分理解していただき、住まいとお付き合いをして欲しいとお伝えしています。
あまり語られない高気密高断熱住宅のデメリット
高気密高断熱住宅が誕生するまでの歴史は非常に長く、現代の様な高性能な住宅ができるまでの先人の努力には、感慨深いものがあります。とは言うものの、まだまだ建築に関わる者が考えていかないといけない点はたくさんあります。
現代は、どの工務店もハウスメーカーも30年前と比較すると驚くほど素晴らしい住まいを作られていますが、今は、まだまだ進化の途中。こうした視点から、高気密高断熱住宅のいくつかの課題(デメリット)を挙げます。
【高気密高断熱住宅のデメリット1】コストが高くなる
高気密高断熱住宅を作るには、極めて簡単に言えば、次の様なことをする必要があります。
- 住まいの小さな隙間をしっかりと密閉する(配管周り・コンセント周辺なども)。
- 断熱性能を高める(断熱材の質を高めたり、厚みを厚くするなど)。
つまり、高気密高断熱を意識せずに施工する場合と意識した場合とでは、現場での作業量が大きく異なります。当然、その分、施工期間も長くなり、費用も高くなってしまうというデメリットがあります。
【高気密高断熱住宅のデメリット2】室内の空気が汚れやすく化学物質が蔓延しやすい
現在は、24時間換気システムを設置することが義務付けられています。それも1時間あたり住まいの容積の0.5倍分の空気が入れ替わる換気システムの設置が義務付けられています。簡単に言えば、
計算上、2時間で家中の空気が全部入れ替わる
ということになっていますが、換気システムを設置したからと言って、家中の空気が綺麗に入れ替わるなんてことはありません。さらに、最近では、光熱費の高騰から換気システムをOFFにして生活をされている方も3割程度見られます。そのため、空気の汚れには注意が必要です。
換気システムを設置したからと言って、家中の空気全てが入れ替わらない。
換気システムは、先にも触れたように、「計算上、2時間で家中の空気が全部入れ替わる」というもので、ポイントは「計算上」というところです。
例えば、家の容積が300㎥である場合、換気システムの排気能力が2時間で300㎥あれば良いというきまりがあるだけです。ですから極端な話、室内の決まった場所の200㎥の空気は何度も入れ替わっているが、ある場所の空気100㎥は全然、入れ替わっていないということもおきるのです。空気は簡単に移動するものの様に見えますが、そんなに簡単に動いてくれません。
分かりやすい例を挙げてみましょう。
最近は、この様なサーキュレーターという小型扇風機の様なものが多く販売されるようになりました。これを「コンパクトでパワフルな扇風機」と誤解される方もいらっしゃいますが、本来の目的は、
室内の空気を循環させる直線的な風を送り出す機械
で、直接風を浴びて、「あぁ涼しいなぁ」と感じることを想定して設計されたものではありません。ですから、サーキュレーターの風を直接浴びたことがある人は、風が妙に強いと感じたはずです。
本来、サーキュレーターは、エアコン(冷房・暖房)効率を高めるために、部屋中の空気をかき混ぜることが目的なので、扇風機と比較すると、直線的で強い風が送風されるのが特徴です。
つまり、そのくらい強い風を意図的に送り出さないと、空気が循環しない部分もあるということです。
その為、24時間換気システムを使用しているからと言って、家中の空気全てが定期的に入れ替わるということではありません。吸気口の位置や排気口の位置、間取りなどによっても空気の入れ替わり方は大きく異なります。
このことを踏まえると次の点にも注意が必要です。
化学物質だらけの住まいの空間になる可能性がある
「シックハウス症候群」最近では、あまり耳にする機会は減りましたが、1980〜1990年代には盛んに耳にした言葉です。
近年、住宅の高気密化などが進むに従って、建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等と、それによる健康影響が指摘され、「シックハウス症候群」と呼ばれています。その症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など人によってさまざまです。(厚生労働省より抜粋)
原因は、室内空気汚染と一言で書かれていますが、室内の空気が化学物質によって汚れるということは、とても身近なことです。
様々な自治体が以下の様な資料を作成し、現在も認知を高めようとしています。
室内での主な化学物質の発生源
もちろん、ライフスタイルを変えて「化学物質が発生するものできるだけ排除していこう」と努力することは可能ですが、家具・防蟻剤・ワックス類・壁などを排除、交換することは大変です。
つまり、「シックハウス症候群」という言葉を耳にする機会は減りましたが、原因となるものが消えた訳ではありませんから、現代でも「シックハウス」に悩まされている方も多いのが現状です。
実際に、千葉大学予防医学センター鈴木規道准教授によると、
約3割の方が、シックハウス症候群の可能性がある
としています。ただ、これだけ多くの方がシックハウス症候群の可能性があるとしても、症状は様々であり、「住まいが体調不良の原因」と考える方が非常に少ないために、話題になりにくいと推測しています。
住まいが高気密になればなるほど、換気をきちんとしないといけないことが分かります。
つまり、
暖かさ・涼しさを保ちながら換気をしっかりする必要がある
というかなり難しい問題が残されているのが現状です。
さらに厄介な点は、いくら換気をし、空気清浄機を置いたとしても、化学物質が含まれた建材からは、約20年間、化学物質が揮発し続けるということです。
高気密であれば、空気がどの様に動くかシュミレートすることが可能ですが、何よりも安心なのは、人体にとって良くない化学物質が揮発しない建材を使って住まい作りをすることではないでしょうか。
【高気密高断熱住宅のデメリット3】冷暖房との付き合い方に注意が必要
高気密高断熱住宅の最も大きなデメリットは、
子どもの熱中症の増加・自律神経の乱れの原因になる可能性もある。
といことです。
一般に、高気密高断熱住宅は、
ヒートショックを抑えたり、熱中症予防に効果があるって言われるのにどういうことなの?
高気密高断熱住宅のメリットでもある点がデメリットになりかねないということです。
あなたも夏に熱中症に関するニュースを聞く機会が年々増加していると感じるのではないでしょうか。熱中症になる人が増加する原因は、様々考えられます。
- 猛暑日と呼ばれる日が年々増加している。
- 高齢者の割合が高くなったために、熱中症のリスクも高くなった。
- 暑さや寒さに弱い人が増えた。
様々な論文にも書かれていますが、人は恒温動物であるために、暑ければ体温を下げる機能が働き、寒ければ体温を高めようとする機能が働きます。
体育学の専門家である正木健雄氏らの長年の調査でも、「汗をかけない子ども」が増加していることが分かります。「子どものからだと心 白書」のデータによると、
健康中学生の1日の体温分布の変化
朝の体温(37℃以上) | 6.7% |
午後の体温(37℃以上) | 56% |
この様な結果が見られました。
つまり、「体にこもった熱を上手に逃すことができない」子どもがたくさんいるということです。体育学の専門家である正木健雄氏は、この様になった原因は、「生後3歳までに汗をかく体験をしないと熱を逃す機能が発達しないため」で、「快適な環境が、発汗体験の機会を子どもから奪ってきている」と言われています。
医学の専門的な知識がなくても、ずっと快適な温度で生活をしていると、体温を調整する機能が乱れてしまう(自律神経の乱れ)が起きやすくなることは、十分想像できるのではないでしょうか。
大切なのは「住まいとの付き合い方」
高気密高断熱住宅のデメリットを紹介してきましたが、高気密高断熱住宅が悪いという訳ではありません。
大切な点は、
高気密高断熱住宅のデメリットとなる部分をよく理解して付き合うこと
です。一般的には、「全館空調が可能であり、夏も冬も快適」などと言われますが、特に小さな子どもがいる場合には、敢えて快適さを少し手放してみるという付き合い方が、長い目で見ると必要だと考えています。
高気密高断熱住宅の気密を下げることは簡単で、窓を開ければいいだけですが、気密が低い住まいの気密を高めることは非常に困難だということも考慮しておきたい点です。
ただ、大きな問題となるのは、「人は便利で快適が好き」ということです。
例えば、車を使って生活をしていた人が、「今日は車を使わない日にしよう」と決めて行動に移すのは、なかなか困難なことです。これを可能にするには、「歩く楽しみ・気持ち良さ」を体感するしかありません。こうしたことも踏まえると…
ただ住まいに快適さを求めるのではなく、暮らしそのものを楽しめる家
にすることがとても大切だと思うのです。暮らしそのものが楽しい・心地いいと感じるには、人類が長く付き合ってきた自然の力を借りるのが一番ではないかと思うのです。
コメント
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[…] このシックハウスについては、まだまだ問題が解決されていないというのが現状です。シックハウスについて詳しくは、高気密高断熱の住まいのデメリットも知って住まいと付き合うの記事でも紹介しています。 […]