新築やリノベーションを考える時に、住宅の性能・費用・立地条件などが気になるものです。
さらに
ももちろん、気になるポイントになるはずです。
これらの優先順位は、ご家庭の状況によって異なるために、ここでは深く触れませんが、「デザインや質感・生活のしやすさ」を追求する時に、何が重要になるか私の考えをお伝えします。
これまで、一般的な住まい〜店舗・文化財等の新築・修繕に関わってきた経験を元に、詳しく解説します。
結 論
どういうことなのか、なんとなくイメージできると思いますが、なぜ、引き算が重要なのか詳しく解説します。
注文住宅のデザインの話の前に確認しておきたい超基本的なこと
注文住宅のデザインはとても重要です。
ところが、デザインの前に当たり前ですが、「住める」ということが大前提となります。
という状態では全く意味がないということです。
住めない家だけど、格好いい・オシャレな家って普通ないでしょ。
あなたもこう思うかもしれませんが、人工的な建材をふんだんに使った家を購入し、
- シックハウスの様な症状(頭痛・目まい・アトピーなど)を発症した。
- しっかりと睡眠をとっているのに疲れがとれない。
- 窓を開けるのが怖い。など
この様な問題に直面してしまったという方々の声をこれまでにもたくさん聞いてきました。
当然、この様な問題を発症した方は、一般的な住まいの数%に過ぎないかもしれませんが、住まいは大きな買い物です。
家を新築したけれども、自分の身体にはあわなかった…ということは、何があってもいけないので、私が設計を行う場合は、素材にこだわる様にしています。
もちろん、耐震性・断熱性なども重要ですが、
まずは、
と感じられる様にすることがスタート地点になります。
少し厳しい表現になりますが、部屋に入るだけで気持ち悪くなる様な住まいであれば、いくら耐震性や断熱性に優れていても全く意味がないということになります。
そんな事あるはずない…と思われる方がほとんどですが、この様な問題は年々増えてきているのが現状です。
詳しくは、私たちについて【Profile】をご覧ください。
前置きが長くなりましたが、注文住宅のデザインの基本的な話に入ります。
そもそもデザインとは何か?【注文住宅に限らず全てに共通する考え】
私たちは、日頃なんとなく「デザインが格好いい」などと会話をしていますが、デザインとは、
と考えるのが基本です。
目的をより素早く達成するために引き算が重要だと分かる事例
例えば、
これでも「月曜日の予定を伝える」という事が目的であれば、「目的を達成」したと言えそうです。
ところが、見にくいのでもう少し見やすくできないかなぁ?と通常考えるでしょう。
少し整理して見ると次の様になります。
1時間目は国語
2時間目は算数
3時間目は図工
4時間目は図工
給食を食べてから
清掃
5時間目は社会
6時間目は委員会活動
少しスッキリしましたが、まだ見にくいです。
重複している言葉は、工夫次第で削ることができそうですから、削って整理してみます。
そうすると、誰もが馴染みのある時間割表の様なものができあがります。
月曜日の予定
引き算をすることで、目的達成までの時間・労力が随分軽減されたはずです。
目的達成までの時間・労力をどの様にすれば削減できるのか?を考えることが、デザインの本質であって、見た目をいい感じにすることは、その次の話になります。
注文住宅の話になると「足し算」になりがち
注文住宅の話をする場合、お客様も一般的な営業担当者も話が「足し算」になりがちです。
もちろん、お客様の場合は、新しい住まいでの生活をイメージして、あれもしたい・これもしたい…と考えられるのは当然のことですが、設計・プランを担当するものとしては、
です。
例えば、次の様な要望がありました。
- 子どもも自分の衣類を自分で管理できるようにしたい
- 敢えて更衣をする場所を同じにして、会話が生まれる様にしたい
- 衣替えをできるだけしなくていいくらいの収納が欲しい
- 収納した衣類が見えない様にクローゼットの扉の様なものをつけたい
これを形にしようとすると、通常ウォークインクローゼットの様なものを一つ設けるという話になりますが、そうすると他のスペースを削る必要が出てきます。
敷地の関係からもその様な贅沢なスペースを設けることは厳しいために、洗面化粧台周辺のスペースを広めにして、壁面に収納を作ることにしました。
洗面化粧台・浴室・洗濯機・衣類が一つの部屋にある感じになり、夏のジメジメ感が気になると思われるかもしれませんが、夏は床がしっかりと水分を吸収してくれるので問題ありません。
詳しくは、無垢材に調湿効果はあるのか?【エアコンの利用量が減少する】をお読みください。
この要望を形にすると…
ところが、お客様の要望にあった衣類が見えないようにする扉はつけていません。
実は、この部屋の入り口には、引き戸もついていますから、さらにこの壁面に扉をつける必要はないと考えたためです。
来客があった場合にも、この部屋はリビングから見えないので、何も問題ありません。
その他の目的は概ね満たすことができるので、引越しをされてから10年以上、ずっとこの形のまま利用されています。
また、廊下が長いお住まいの場合、殺風景にならないだろうか?という心配をされることもあります。
もちろん、建物のコンセプトや見せ方は様々ですが、シンプルにすると、無機質な感じになってしまうことがあります。
そこで、ホテルやデパートなどでは、絵画・書・写真などを壁面に飾る必要性が多々出てきます。
つまり、
「足し算」をしないといけない場面
が出てきてしまいます。
一方、有機的(生物的)なもので、先日、一般的なご家庭を施工しました。
何も特別な策はしていませんが、殺風景でしょうか。
空気感まで写真で伝わると嬉しいですが、生物的な素材(自然な素材)を用いた場合、思い切って「引き算」をしても殺風景になりにくいものです。
では、なぜ、生物的な素材(自然な素材)で空間を作ると殺風景になりにくいか考えてみましょう。
日本の人の感覚は華道・西洋人の感覚はフラワーアレンジメント
私が住まいをデザインする時に「引き算」が重要だと考えるのは、日本文化との関わりがあります。
西洋は、自然環境が厳しい地域も多く、どうしても自然と対立する形で生活をしなくてはいけませんでした。
けれども、人は基本的に自然は好きです。
その為、西洋の人々は自然を室内に取り入れる時に、思い切りギュッと詰め込む様な形をとりました。
一方で、日本は、西洋に比べると適度な四季の変化があると同時に、島国だからこそ形成できた独自の文化というものがあります。
私たちの祖先は、「自然と共に生きる」生き方を選択しました。
もちろん、この考え方は、住まいづくりにも大きな影響を及ぼし、長年、外と内が見事に繋がったスタイルの生活をしてきました。
その為、室内に自然を持ち込む際にも、できるだけ自然に近い形でありながらも格好いい・味わい深い形で持ち込めないか?ということを追求してきました。
その結果が華道の考え方です。
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フラワーアレンジメントと比較すると、圧倒的に引き算を重視しているという事が見えてきます。
この「引き算の文化」は、長い歴史があると同時に、日本の独自のものでもあります。
「引き算の文化」には次の様な特徴があります。
- 小さなものの存在に喜ぶ
- 小さな変化に気付く
- 「無」「間」に美しさを感じる
だからこそ、日本料理は美しく・繊細であると世界でも評価され、日本の道徳心も最高レベルだと言われるのです。
そんなことまで考えると、住まいのデザインは格好いい・機能的という所に止まってはいけない気がします。
私が設計をした住まいで、こうした感性も存分に身に付けて欲しい…という願いもあるので「引き算」をとても大切にしています。
日本の文化の成り立ちについて、詳しくは、【快適な家の条件】本当に大切なのは数値化できない文化を見る目に書いているので、参考にしてください。
注文住宅のデザインは、もちろん、法的こと、予算、ご家族のニーズなど、様々な条件をクリアしていくパズルの様な作業もたくさんあります。
その上で、生活をされる方が、住まいからどんな事を学びたいと思われているのか…そんなことを想像することがとても大切だと考えています。
近年は住宅の機械化が進み、様々な機能が機械でカバーできる様になりましたが、文化的な考え、意図というのは、やはり人や自然の素材でしか伝えられないものです。
ついつい住まいを新しくするという場合、予算やコスパ、機能に目が行きがちですが、特にお子さんがいらっしゃる場合、住まいから何を学ぶことができるだろう…という視点ももって欲しいと思います。
長文を最後までお読みいただきありがとうございます。