住まいづくりを考える時に、もちろんデザインはとても重要になります。
新築やリノベーションをした際、デザイン・雰囲気が思った以上の仕上がりになった!となれば、気分も上がり、日々、家で過ごす時間が楽しいものになるはずです。
つまり、デザインは人の気分、合理性とも深い関わりがあります。
デザインそのものの基本的な考え方は、【注文住宅のデザインの超基本】飽きない住まいにする考え方に詳しく書いていますので、参照してください。
さらに、注文住宅(リノベーションも含む)のデザインですが、住まいとは最低でも数十年という期間を共にしますから、次の点には注意して欲しいとお客様には話をしています。
- ただ、流行り、見た目だけの格好良さに縛られない(絶対にコレ!と早まらない)
- 日常的に長く愛されてきたものを見る意識をもつ
ということです。
そこで、今回は、
ことをしてみようと思います。
「住まいをデザインする」ためには、見た目・機能性の他にも人としての性質や時代の流れを一歩深く理解しておくことは、面倒でもとても大切だと考えています。
注文住宅のデザインを考える前に、美意識とは何かを知ろう
日常的に、「あの人は美意識が高い」などと言われます。
それは、服装が綺麗だとか、動きが綺麗だとか…そういう雰囲気を出している人に対して使われる言葉です。
では、何をもって「綺麗」と言うのか。
古典的には、物凄く感覚的に「綺麗」というものを捉えていたそうですが、近代に入ってからは、
を形にしたもので、そこには、「損得」とか「利害」がないものとされました。
言葉で表現すると複雑なので、思い切り簡単に表現すると、
この絵は物凄く綺麗だと思わない?
「売れるかどうか、人気が出るかどうかも知らないけれど、理想を描いてみたんだ。」
という感じです。
葛飾北斎が理想とする「綺麗」の雰囲気がなんとなく分かる気がします。
歴史的な美意識=「粋」という考え方
この美意識の中でとても重要なのは、
ということです。
この重要性は、音楽に置き換えるととても分かりやすくなります。
よく言われる
- 売れる曲を作って歌うのか?
- 歌いたい曲を歌うのか?
この感覚の違いは、とても重要です。
フォークソングが流行った時代を振り返ると、「歌いたい曲が歌われた」ということが分かります。
その結果、多くの人たちの共感を得たシンガーが音楽業界に残っていったという流れです。
また、そうして誕生した歌は、瞬間的な大ヒットにならなくても、長く愛され続ける傾向にあります。
一方、現代は、「売れる曲」が全面に押し出される傾向が強くなりました。
これは、アーティストの問題ではなく、多くの人が楽曲の制作・宣伝活動に関わるようになったために、売れないと困るという側面もあるためです。
もちろん、爆発的なヒットとなり、長く愛される曲もありますが、短命な曲も随分多い気がします。
これらの違いは、
- 作り手の損得勘定を抜きにして追求されている。
- 作品の出来栄えだけでなく、作り手の生き様・努力が見える。
- いつの時代も変わらない感覚が取り入れられている。
こういうことであり、一言で言うと、
という事になりそうです。
「粋だね」というと、寿司職人を思い浮かべる人も多いでしょう。
粋な寿司職人さんと言えば、
- 売り上げ、利益を考えずにこだわったお寿司を握る。
- お寿司に対する情熱が感じられる。
- 流行りに流されず、伝統的なお寿司を握る。
こんなイメージだと思います。
ちょうど、「歌いたい歌を歌う」ミュージシャンと重なります。
こうした「粋」な寿司職人さんがいるお店は、大規模な事業展開はされないですが、長年、地元の人に愛されるお店がとても多いです。
この様に、人が長く愛するものを見ると「粋」であることはとても大切なのです。
また、住まいとは長く付き合うために、「粋だなぁ」と感じるかどうか…そんな視点で見ていきたいと思います。
現代の注文住宅のデザインに「粋」を感じるかどうか?
「粋だなぁ」と感じるかどうかは、個人差はあるものの、全体的に随分減ってきた様に感じます。
その理由は、様々考えられますが、
からだと思います。
特に、都会では土地の価格が高騰しているために、単純にデザインを楽しむということが難しいのが現状です。
具体的に例を挙げると、
- 太陽の方向、日当たりを考慮する。
- バス・トイレ・キッチン・収納などは絶対に必要。
- 近隣の家から視線を考慮する。
- 法的な条件を満たす。
など、挙げればキリがないほどです。
つまり、デザインをする前にクリアしないといけない機能性(損得勘定)が山積みということです。
ですから、ほとんどの工務店・ハウスメーカーも機能的な面の話が多くなってしまいます。
面積は小さいお住まいですが、しっかりと収納できるスペースを設けました。
これほどの収納力があるお住まいは少ないですよ。
人の「美意識」とか「粋」という感覚を追求すると、これではなんだか寂しい気がしますが、私も様々な住まいを設計してきて、こうなるのは仕方がない側面もあることは十分承知しています。
ただ、私の場合は、建材(素材)に「粋」という感覚が損なわれない様に助けてもらっています。
私が設計する住まいは、基本的に無垢材、漆喰をメインにしていますので、損得勘定を一切に抜きにした木目などを十分に楽しむことができます。
塗装やコーティングなどを一切行っていない杉無垢材を使っていますが、生えている杉はもちろん、建材になることを考えていません。
自由に成長し、気ままな木目を作っていきます。
その木目に敬意を表しながら、
- どんな木目からでもそれぞれの生き様が感じられる。
- 古くから日本で愛されてきた家屋の風合いを損なわないようにする。
という点は、絶対に守っています。
実は、これまでに「木の節が気になるので、なんとかならないか?」と言われたことも何度もありますが、「木の節」の存在は、「粋」だと捉えていることを伝えてきました。
この部分に、損得勘定的なものを入れてしまうと、「粋」である感覚が損なわれそうな気がするのです。
以前に、様々なドラマの脚本を書かれた寺内小春さんが次のようなことを言われていたのを思い出します。
脚本家の仕事って、役者さんのスケジュール的な問題をまずクリアしないといけません。実は、この問題がかなり大きいので、それをクリアできるように脚本を書いても結構面白いドラマになります。けれども、それだけでは、ドラマに命が宿りません。やっぱり、それぞれの役者さんの雰囲気、持ち味をどうやったら生きるかを考えて、いい作品ができる気がします。
住まいづくりに限らず、「粋」という感覚は、近代化、合理化が進む中でも大切にしたいものです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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