新築やリノベーションをしようと考えた時に、当然、住まいの寿命が気になるものです。
ところが、ハウスメーカーや工務店の話を聞くと
- 人生100年の時代、住まいも100年の時代です。
- 木造住宅の寿命は、30年〜80年です。
- ローコスト住宅になるともっと寿命は短いのでは?
本当のような、憶測のような話を耳にします。
ところが、実際には上の3点はどれも正しいと言えます。
私たちがリノベーションをする際に解体を行いますが、築50年を超えている古い物件でも内部が非常な綺麗なこともあれば、築20年程度の物件でも、危ないところだった…と感じることもあります。
そこで、
- 木造住宅の寿命が様々に異なる原因
- 大きな問題なく長持ちしている建物の特徴
を紹介します。
特に、これから住まいづくりをしようと言う方は、
木造住宅は強いとか、鉄筋コンクリート造は強いと言った一括り的な見方は避けたいものです。
この理由も解説します。
そもそも木造住宅の「寿命」と「耐用年数」は意味が全く異なる言葉
「住宅の寿命は22年」と「住宅の耐用年数は22年」と言われた時、受け取る印象に大きな違いはないと思います。
ところが「耐用年数」という言葉は法的に定義されている言葉で、「寿命」と区別して使われる言葉だという認識をしておく必要があります。
住宅の寿命とは?
「住宅の寿命」に明確な定義はありませんが、一般的には、
のことを言います。
もちろん、経年とともに外壁塗装が劣化したり、台風などの災害によって屋根が痛むことも想定されますが、通常はこの様な問題が起きても、修繕しながらでも住まいとして利用できる期間のことを言います。
住宅の耐用年数とは?
木造住宅の耐用年数とは、
のことで、税務上の資産価値が0になるまでの年月のことをいいます。
どれだけ優れた木造住宅を建てても耐用年数は法的に22年と定まっています。
例えば、格好いい木造のペンションを建てたとすると、当然1年目は資産価値が高く、20年を超えてくると資産価値は低くなることを想像できるでしょう。
この場合、新築から22年の間は、経費として計上できるということであり、「寿命」とは区別されます。
22年以上使われている木造住宅はあなたの周りにもたくさんあります。
木造住宅の寿命はとても長くもあり、短くなる理由
木造住宅の寿命は
というと、そんな曖昧なものではいけないだろう!と言われそうです。
この大きな違いは何が原因なのでしょうか?
当然、様々な要素があるのですが、近年の建築技術を見ながら、誤解が生まれているのではないか?と思う部分に焦点を当てて紹介します。
木は弱く原始的な頼りない材料?
現代は、建築業界に限らず、次々と新しい技術が生まれています。
例えば、「ガラケー」よりも新しい「スマホ」の方が機能性が高く便利である。という具合に新しいものに人は注目しがちです。
この様な見方からすると、昔からある「木造住宅」はどこか原始的で頼りない気がするというものよく分かります。
その一方で、物理学的に計算をし様々な実験を行った新しい工法の方が丈夫で長持ちするのではないか?という様に感じるのも十分に分かります。
ただ、これだけ地震大国と言われている日本で、あまり知られていない話ですが、三重塔や五重塔と呼ばれる建物は地震で倒壊していないのも事実で、近年建てられた住まいでも倒壊した建物があるのも事実です。
もちろん、三重の塔や五重の塔などの建造物が虫や菌などに侵食されていないことも想像できると思います。
つまり、
ということを先人が教えてくれているのです。
鉄は果たして強いのか? 木と鉄の融合を考える
近年では、木造住宅の構造部分に金属の補強を入れることが義務付けられています。
また、ハウスメーカーや工務店でも、独自に研究をし、より丈夫になるように金属の補強をふんだんに入れている会社もあります。
ただ、ここで注意したいことは、
という点です。
鍛治職人・白鷹氏は、薬師寺の再建の際に1000年もつ釘を作ることに挑戦されました。
その時の様子が書かれたものに次の一節があります。
今の釘の寿命はせいぜい50年。
それ以上になると、空気や水に触れたところから錆びて、腐ってしまう。
千年の釘にいどむ より
より釘の寿命を伸ばすために、白鷹氏は、努力を重ねられました。
当然、釘の材料の質にまでこだわって、改良に改良を重ねてやっとの思いで釘を作られたのです。
当然、これほどのレベルの釘・金属を一般的な住まい・店舗に使う訳にはいきません。
素晴らしいものですが、膨大な予算が必要になってしまいます。
と、いうことは、一般的な木造住宅の場合、
という見方が重要になってきます。
つまり、金属はどうしても木よりも短命になりがちなので、基本的には木だけで住まいを作るが、補助として金属を使っていると捉えるべきです。
注意が必要なのは、
という金属が補強の領域を超えている考え方になってしまう点です。
私は、次の世代にも受け継ぐことのできる住まいを建てたいと常に思っていますから、金属に助けてもらいながらも、金属に頼らないという考えを大切にしています。
木造住宅の寿命を延ばす基本的な考え方「木と金属」と「子どもと親」
常に「住まいは人と同じ」とお客様に伝えていますが、金属と木材の関係も親子と似ている様に思います。
どれだけ現代の技術を用いても、建ったばかりの建物には僅かな緩みがあります。
ところが、10年・20年の時間をかけて生きた木材は微妙に変化をし、次第に締まっていきます。
これだけの時間をかけて、木は建物に馴染みより強固になるのです。
つまり、それまでの期間は、ある程度「金属の補助」が役割を果たすが、20年を超えてくると木材が次第に独り立ちをする…という感覚です。
ちょうど、人間の親子関係と似ています。
人間の場合、いつまでも親に頼っていては独り立ちできません。
成長していくにつれて手放していく必要があります。
こうして住まいというものを見ると、
人と同じ様な感覚で扱ってあげる
ことが、住まいの長寿の秘訣だと見えてきます。
では、本当に木材の寿命は長いのか?
先人たちは、木材を丁寧に扱い、それを現代にまで伝えてくれている事例を紹介します。
正しく木を扱うと100年住宅は当然のものとして出来上がる
木にとってなかなか厳しい環境だろうと考えられるものの一つに「酒樽」があります。
当然、酒樽の中には、たっぷりとお酒が注がれ、お酒は樽の中で長らく熟成されます。
住まいを作る時には、「構造部分はとにかく湿気ないようにしよう!」というくらいですから、酒樽は、真逆の厳しい環境だと言えます。
それでも、古来からある方法で、木をゆっくりと自然乾燥させて作った酒樽は、20年〜30年は使われ続けます。
そして、酒樽としてのお役目を終えた後は、味噌樽としてさらに活躍し、60〜100年ほど使われて樽のお役目を終えていきます。
子どもの頃、田舎で育った方は、「そう言えば、いつ作られたかも良く分からないぬか漬けの樽が蔵に置いてあったなぁ…」と思い出した人も多いのではないでしょうか。
あまりにも過酷な条件であっても、木を丁寧に扱ってあげると私たちの期待に十分応えてくれる材料であることが分かります。
最後までお読みいただきありがとうございます。