2021年7月。
今年の梅雨は、各地で激しい雨が降り、一時的に非難しないといけない状況になったという方も、全国でたくさん見られました。
この様な「災害」が起きると、必ず、木造住宅の強さについて質問をいただきます。
先日も次の様な質問をいただきました。
素人の考えでは、木造住宅は簡単に燃えてしまう様な印象がありますが、専門の方に伺うと、簡単には燃えないとのことでしたが、なぜだか良く分かりません。詳しく教えていただけると助かります。
というご質問でした。
今回は、この質問について詳しく解説していきます。
結論
- 木は本来簡単に燃えない(簡単に燃えてしまう木もある)
- 燃えない木材というものも開発されている
どういうことか、体験的な視点と科学的な視点から詳しく見ていきましょう。
木材は本来、簡単に燃えないが、簡単に燃えるものもある
【体験的な視点から】木になかなか火がつかない
誰もが、何度か「焚き火」や「野外炊事」を行った経験があるはずです。
キャンプ場に行けば、しっかりと乾燥させられた薪を準備してくださっているにも関わらず、なかなか火が点かないということを経験したことがあるはずです。
しっかりと燃やすには、
- 燃えやすい小さな木片から点火する。
- 十分に空気(酸素)がいく様に注意しながら少しずつ大きな薪を入れていく。
この順を丁寧に守っていかないと大きな火になることはありません。
実際に、一旦、大きな火が点いたとしても、薪の入れ方が雑だったりすると振り出しにもどってしまうなんていうことも多々あります。
つまり、経験的には、「木はよく燃えるものだけど、なかなか火がつかない」ということです。
では、なぜ、木は簡単に燃えないのか?科学的な視点から見ていきましょう。
【科学的な視点から】木がなかなか燃えない理由
木材に限らず、世の中の全てのものは、次の条件を満たすと燃えます。
- 燃えるものがある。
- 酸素が十分にある。
- ものの温度が発火点以上になる。
この条件さえ満たせば、鉄だってあっという間に燃えてしまいます。
ところが、これらの条件を満たさないのであれば、紙でさえも燃えません。
だから、「紙鍋」というものも存在します。
ものが燃える条件にあわせて木材を見ると燃える木材・燃えない木材についてよく分かります。
例えば、割り箸は非常によく燃えます。
これは、割り箸の周りに十分な酸素があるためですが、大きな丸太をいきなり燃やすことはできません。
木材内部には、空気(酸素)が含まれていますが、燃やすには不十分な酸素量です。
ですから、表面は焦げ付いて、炭化しても内部は何も変化しないということがおきます。
そのため、昔ながらの大黒柱がある様な住まいでは、小さな木材部分が燃えることがあっても、大きな柱は健在でした。
近年の住まいの場合、「大黒柱」がない場合が圧倒的に多いのが現状です。
じゃあ、近年の木造住宅はやっぱり燃えやすいの?
もちろん、簡単に燃えてしまうようではよくありません。
そのため、燃えにくい木材というもの研究されています。
防火材料(木材)の開発
様々な木材がありますが、当然、火災に強い方が良いと考えられます。
そのため、様々な技術が駆使されて、燃えにくい木材というものが作られていますので、その基本的な構造なども簡単に紹介します。
防火材料(木材)の種類
一言で「防火」と言っても様々です。
実際には、
- 不燃材料
- 準不燃材料
- 難燃材料
の3種類が存在します。
細かい説明は割愛しますが、漢字の通り「不燃材料」が「燃えてしまうリスク」に対しては一番強く、続いて、準不燃材料・難燃材料と続きます。
どの様にして木材を燃えにくくするのか?
様々な方法がありますが、基本的には、「薬剤を木材に注入」する方法になります。
ただ、薬剤を注入するのに、圧力を加えるなどのことが行われますが、なかなか内部に薬剤が浸透しないことも想像できるかと思います。
その為、レーザーを使って、木材に細かい穴をあけて薬剤を浸透させる方法が用いられています。
その薬剤ってどんな薬剤なの?
薬剤も様々な種類がありますが、代表的なものを一つ紹介します。
この図の様に、木材の温度が高くなってくると、木の主要な成分である「セルロース」を分解させて、水を発生させる薬剤を浸透させています。
当然、その水分は蒸発していきますから、木材そのものの温度が上昇しにくいということになります。
先に触れた、燃える条件の「ものの温度が発火点以上になる」を阻止する形で燃えにくくしています。
ただし、木材の主要な成分のセルロースの一部が分解されるということが起きるので、燃えないけれども強度の問題が生じる可能性があるという課題をかかえています。
そのため、さらに高性能な薬剤の開発は現在も追求されています。
また、木材を燃えにくい材料で包むという方法があります。
炭火を起こし、焼き芋を作るときに、芋を炭火に放りこむと芋は燃えてしまいます。
けれども、アルミホイルに包むと、芋は燃えることがないのと似た様な考え方で木材を加工し、燃えにくい様にする方法があります。
燃えにくい材料と木材を組み合わせる方法は、いくつかのスタイルがありますが、高い技術力と手間がかかることは十分想像できるはずです。
寒い時期も暑い時期も森林は乗り越えてきた!
今回紹介した燃えにくい木材には、最新技術が使われ、今後も研究が進んでいくことでしょう。
素晴らしいことですが、デメリットも当然考えられます。
- レーザーを当てることで木材の耐久性に問題は生じないか?
- 浸透させる薬剤は人間にとって害が本当にないものだろうか?
正直、まだ分からない部分も多いというのが現状です。
こうしたデメリットの部分を見ると、森林の木をできるだけそのまま使うことが如何に大切かが、改めて見えてきます。
そもそも、森林の木は、長い歴史の中で起きた様々な異変を乗り越えて生命を繋いできたということは確実に言えることです。
その部分を尊重して、主要な部分はしっかりとした大きな木材を用いれば、「燃えてしまう恐れ」を軽減させられます。
ついつい新しい技術の素晴らしさに目が行きがちですが、私は、人の手によって様々なに加工されたものを用いるよりも、シンプルに、木々が歴史の中で培ってきた力を信じたいと考えています。
建築に限らず、なんでもそうですが、
人の手が大きく入ったものには、どうしてもデメリットが存在してしまい、そのデメリットを解決するために、さらに新しく手が加わるという循環が生まれる。
こうした側面が必ず存在します。
私たち人間も自然の一部である以上、可能であればできる限り自然に近い形で物を利用するという気持ちは大切にしたいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございます。
火災から命を守るという点でも、できるだけ加工されていない木材を使うことは大切です。
薪で焚き火をすると、なんだか山らしい香りがしますが、合板で焚き火をすると喉が辛くなる様な煙がモクモクとでてきてしまいます。
こちらの記事も参考にしてください。