家は使う人の気持ち次第で蘇る!丁寧に作られたボロボロの家の話

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日常の何気ない風景の中にも発見はたくさんある。そんな発見を唄にする詠み人。住まいや生活について考えることも多く、これまで感じてきたことを鋭く、面白い視点でブログ記事を書いている。趣味は料理。

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「住まいはちゃんと使ってやらないと痛むよ」

こんなことは、あなたも何度も耳にしたことがあるはずです。

多くの物は、触らないようにそっとしておいた方が長持ちするのに、住まいは使わなければ傷んでしまうとは…不思議な物です。

そういう不思議な側面があるにも関わらず、ただ単なる物として作られる住まいもあれば、「人と共に生きる」という感覚で、大事に丁寧に作られる住まいもあります。

ここでは、私の実家、丁寧に作られたボロボロの家について、お話します。

丁寧に作られたボロボロの家…昨年の夏に売られた一軒家の話です。

 

盛大な新築祝いがなされた後に…

中部地方の片田舎に建つ私の家は、30年前に私の父が建てたものです。

私は小学校6年生から高校3年生までその家で、過ごしました。

木造2階建てで、車庫には車2台を入れることができ、広い庭もありました。

この家が出来るまでは、父親の働く会社の社宅に両親と姉と私の家族4人で暮らしていましたが、新居には父方の祖父母も加わり6人での生活が始まったのです。

 

田舎ならではの盛大な新築祝いが行われ、勧められるままにビールを飲んで、顔を真っ赤にしていた父の笑顔を今でもよく覚えています。

しかし、その新築祝いから一年半後、父は山の事故で亡くなりました。

休日の日曜日に、会社の同僚と山スキーに出かけた父が滑落したことを知らず、買い物に出かけていた母と姉と私。

携帯電話もない時代です。

私達母娘が買い物から家に戻ると、知らせを受けて駆けつけた親戚の人で家がごった返していました。

 

素敵な家だけど…もう出て行こう!

父という大黒柱を失った我が家は、母が代わって外で働くようになりました。

姉と私にとって、元軍人で寡黙な祖父と嫁いびりのひどい祖母は怖い存在でした。

いつしか私達姉妹の共通目標は「大学進学を機にこの家を出よう」というものになったのです。

そして、まず姉が家を出て、遅れること一年で私が家を出ました。

同時に家出同然で母も出ました。

残された祖父母のうち、何年か後に祖父が亡くなり、一昨年祖母が亡くなりました。

こうして父が建てた家には誰もいなくなったのです。

 

こんなボロボロの家でも大丈夫なのですか?

その家を代襲相続した私は、母や親戚と相談の上売却することに決めました。

市の空き家バンクに登録する際、家の状況を調べてもらいました。

その時、担当者の人から

「良い木材を使った、しっかりとした作りでシロアリの被害もない。水回り等に手を加えればまだまだ住める家です」

と言われ、内心驚きました。

死ぬまで家で過ごすことを望み、決して施設へ入ろうとしなかった祖母。

そんな祖母がしっかりと家の世話をするのは、困難だったのでしょう。

ひとりで住んでいた十数年の間に、すっかり家は痛み、庭は草だらけになっていました。

車庫に至ってはゴミ屋敷状態でした。

そんな状況だったので、家は取り壊して更地にし、土地だけを売りに出すつもりだったのです。

 

家を建てた父の想いに迫る

父がどんな思いであの家を建てたのか考えました。

骨組みのしっかりした家で、家族と共にずっと暮らしていくつもりだったのだと思います。

日曜大工が得意で何でも手作りしてくれた父が生きていたら、きっと孫のおもちゃも勉強机も作ってくれていたでしょう。

私が「死んだ」と思っていた家は生きていました。

そして、幸運なことに住んでくれる新しい家族へと引き渡すことが出来たのです。

購入してくださったご家族には、育ち盛りのお子さんが3人いて、庭と車庫のある広い家を探していたそうです。

すぐに水回りのリフォームをして暮らし始めました。

売買契約等一連の手続きを母が代理で行っていたため、私自身はリフォームされた元実家も新しい住人の方も見たことがありませんでした。

生まれ変わった家を一目みたいと思い、帰省した際に家の前の道を車でゆっくり走りました。

 

天気の良い日、庭でご主人が洗車をしていました。

その奥でお子さんが何やら遊んでいる様子が伺えました。

全体が灰色がかって、もう何年も誰も住んでいないように見えていた家が、新鮮な空気を吸って若返り、生き生きとしていました。

新築祝いのあの日、父が見せた晴れやかな笑顔を思い出し、私の心も若返り軽くなりました。

 

父が残した「家」を殺さずに済んだのです。

家は住む人の息づかいを感じて年をとっていくんだなと思います。

若い家族を迎え入れた家は、これから先も長い時間を家族と共に過ごしていくことでしょう。

 

こうして、住まいというものを見ると、ただの「物」ではなく、作った人の気持ち、住んでいる人の気持ちもしっかりと受け止めてくれる存在のような気がするのです。

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