環境のためにも、省エネの家を作ろうという動きが年々強くなってきています。
そのために、高気密高断熱の住まいにして、小さなエネルギーで室内を涼しくしたり、暖かくしよう…という発想がかなり主流になってきました。
この高気密高断熱の流れやZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の考え方も大切ですが、まだまだ課題が多いのも現状です。
では、そもそも現代の様にエネルギーを多く消費しなかった時代には、どの様にして、暑さ寒さをしのいできたのでしょうか。
今回は、
というテーマで話をします。
昔の夏を制する住まい「茅葺屋根」の優れた特徴
現代の様にエアコンがなかった時代には、夏の暑さを制することができれば快適な住まいになるということが考えられました。
理由はとても簡単で、「暖をとる」ことは割と簡単ですが、「冷やす」ことはとても難しいために、とにかく室内が暑くならない様な工夫が、昔の住まいの至るところで見られます。
そのうちの一つ、茅葺屋根について詳しくみていきましょう。
茅葺屋根には、たっぷりと空気が含まれている
熱を伝えにくいものは「動かない空気」です。
このことを理解するには、真冬に布団に入った場面を想像すれば分かりやすいと思います。
布団の中は、ホカホカ。
でも布団の外は寒い。
一般的にこの様なことが起きるので「冬は布団から出るのが辛い」と言われます。
つまり、「布団はしっかりと断熱をしてくれていた」ということになります。
もう少し正確に言えば、布団の中に熱を伝えにくい「動かない空気」がたっぷりとあったために、しっかりと、断熱することができた。ということです。
茅葺屋根は、かなりの厚みがあり、たっぷりと空気が含まれていることは見てすぐに分かります。
さらに、一本一本の茅葺屋根の材料の茅(わら・すすきなど)の内部にも動かない空気が含まれています。
つまり、断熱性が高く、屋外が灼熱の暑さであっても、室内の温度上昇を抑えることができるという構造をしています。
さらに、日本の気候の特徴を茅葺き屋根は上手に利用しています。
茅葺屋根は日本の雨の降りかたにちょうど適している
日本は、多湿ですが、精々梅雨時期に雨の日が続く程度で、海外の様に連日雨の日が長期間続く「雨期」というものがありません。
大抵の場合、2・3日雨が降った後は、晴れの日がやってきます。
この気候と茅葺き屋根と深い関わりがあります。
この図の様に雨が降ると茅葺き屋根には、雨が染み込みますが、その後は晴れるために、屋根に染み込んだ水は、どんどん蒸発していきます。
この時に、熱を奪いながら水は蒸発していくために、室内温度の上昇を抑えることができるという仕組みです。
意外と知られていない!茅葺屋根の耐久性はなんと!
茅葺き屋根というと、雨が染み込みそこから腐ってくるのではないか?という声を聞くことがありますが、木や植物は、水分を吸いやすく、乾きやすいという性質をもっているので、長持ちします。
一般的に茅葺き屋根の耐久年数は40年ほどと言われています。
現代、よく使われるスレート屋根・ガルバニウム合板の屋根の耐久年数はおよそ、20年〜30年と言われていますから、茅葺き屋根は非常に耐久性が高いと言っていいでしょう。
茅葺き屋根の大きなデメリット
ただし、茅葺き屋根にも大きなデメリットが存在します。
それは、
ということです。
昔は、茅葺の屋根も多く、都市部では木造家屋が密集している地域もあったために、火事は多くの人の命を奪う可能性がとても高いものとして認識されていました。
現代は茅葺屋根を滅多にみることがありませんが、当時の名残りもあり「放火」に対する刑罰は、死刑または無期懲役もありうるという非常に厳しいものになっています。
本当のエコと環境を考えてみよう
今回、茅葺き屋根の特徴を簡単に紹介しました。
ところが、実際に私たちが住まいづくりをする際に「茅葺き屋根にしましょう」と提案することはありません(ご希望があればもちろんお答えしますが)。
それでも、敢えて茅葺き屋根の特徴を取り上げたのは、
- シンプルなものを使って非常に大きな効果を得ている。
- だれがどう見ても環境に大きな負荷をかけているとは言えない。
ということです。
近年では、「環境・エコ」という言葉が当たり前の様に使われる様になり、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)も優れたものだという風潮が高まってきました。
ただ、冒頭でも触れたように新しい技術は、一部を切り取ってみれば素晴らしい、効率的に見えるかもしれませんが、トータルで見るとまだまだ、非効率な部分も多いのです。
エアコンもなかった時代に、なんとかして身近なものを使って暑さを凌ごうとした先人の知恵から学ぶべきことは非常に多く、自然と共に暮らすことの大切さと豊かさも感じられます。
人々が作る新しい技術は素晴らしいですが、それと同時に、何万年もの時間をかけて進化してきた「生物的なものと共に一緒に暮らす」という感覚は、今後、ますます必要になると思うのです。
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。
暮らしの中に、思い切り自然が感じられるものがあると、心まで涼しくなったり、暖かくなるのが不思議だなぁ…と思います。