住まいや店舗の新築を考える時に、見た目だけではなく、様々な構造や工法についても勉強される方が増えてきました。
もちろん、たくさん学んで欲しいと思います。
ただ、注意したいのは、どれだけ優れた技術やアイディアがあっても、素材がよくなければ、いい住まいもできないということです。
住まいも当然、同様です。
ですから、様々な会社が、素材の研究・開発に取り組んでいます。
ところが、素材の研究・開発に取り組むと、そちらに意識が向かってしまい、素材そのものについて深く知る…ということを忘れしまいがちです。
合板などの誕生はその典型的な例で、近年見直される傾向が強くなってきました。
もちろん、合板にも大きなメリットがありますが、一時期言われた「天然木・無垢材の課題点を克服した素晴らしい木材」というには、厳しい面も持ち合わせています。
詳しくは、自然素材の家・無垢の家で暮らしたいなら知っておきたい木の話をご覧ください。
そこで、今回は、木造住宅の原点となる考え方
を紹介します。
古来から生き続けてきた植物は、様々な工夫をしながら生命を守ってきました。
ついつい、人は様々な加工を加えたがるものですが、自然にあるものはそれぞれが工夫をしているためその深さを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
【木造住宅の構造を学ぶ前に】棘のある植物を理解する
庭木の剪定を行っている時に、棘のある葉に出会うと嫌なものです。
その棘のある葉をもつ代表的な植物は「柊(ひいらぎ)」です。
現代は、「ひいらぐ」という言葉を使うことは少ないですが、あの棘が肌にあたってヒリヒリすることを「ひいらぐ」とよく言ったようです。
それが語源となり、上の植物は「柊(ひいらぎ)」と呼ばれるようになりました。
なぜ、棘のある植物があるのか?
柊に限らず、葉や茎・幹などに棘のある植物は、様々あります。
例えば、次の様な植物には、棘があります。
- アザミ(葉)
- マツ(葉)
- バラ(茎)
- ゆず(枝)
- タラ(幹)
なぜ、棘をもつようになったのか?
当然、
も理由の一つです。
柚子の木の見事な戦略が感じられる鋭い棘
柚子の実はとても香りが高く、私は大好きなのですが、人間に食べてもらうために彼らは実をつけている訳ではありません。
自分の子孫反映の為に実をつけているのですが、簡単に鳥や森の動物に食べられてしまってはいけないので、鋭い棘で実を守っています。
ところが、この実を完璧に棘で守るのもよくありません。
実を守り切りった結果、自分の足元にたくさんの実が落ちても自分が窮屈になるだけです。
ある程度、離れたところに実が落ちるというのがベストです。
ところが、柚子の木は動くことができませんから、鳥に運んでもらう戦略をとったのです。
だから、熟してくるととても目立つ色に変化し、いい香りを放すのです。
かと言って、簡単に取りやすい状況を作ると、その場で鳥に食べられてしまうので、テイクアウトをしないと鳥が食べらない状況を棘を使って作っているのです。
これにより、鳥が柚子の実をテイクアウトして、どこかに落としてくれる可能性が随分高くなります。
こうして見ると、柚子の木・実がもっている性質は見事だということに気付かされます。
無駄な攻撃はしない優しさをもった柊
嫌な棘をもつ柊(ひいらぎ)も当然、草食動物に食べられないために棘をもちました。
というシンプルな目的です。
そのために、柊(ひいらぎ)の下の方、高さ2〜2.5m付近までの葉には鋭い棘がありますが、この高さを超えてくると、棘の量が次第に減ってきます。
草食動物が2m以上の高さになる部分を食べる可能性はかなり低くなるためです。
目的を果たすことができるのであれば、無駄な戦いはしたくない…そんな優しさを感じます。
自然にあるものには人が驚くような工夫が隠されている
ここでは、棘をテーマに2つの植物を紹介しただけですが、柚子も柊も長い歴史の中で、どうすれば自分の命を守りながら、目的を果たすことができるのか?と思考錯誤してきました。
その中でベストだと思われる形が現代の形、つまり最高峰な訳です。
柚子の木や柊を住まい作りに使うことはありませんが、
と常に言っているのは、私たちが主に扱う「杉」だって、建材になるために生きている訳ではなく、
と願って生きているからです。
そう考えると、もちろん新しい技術や工法を追求することは大切ですが、その前に、植物達の生き様を想像して、人の手をそっと加える。
とても感覚的な話ですが、こうした意識で住まいづくりに取り組む姿勢は大切にしたいものです。