冬になると「そろそろ味噌を仕込む準備をしないとなぁ。」と話す機会が増えます。
こんな話をしていると、「何で、冬に味噌を仕込むの? 別に時間のある時でもいいんじゃないの?」などと言われます。
確かに、味噌を仕込む時間や手間を考えると、季節に関わりなく、時間がある時に仕込みたいというのも分かりますが、手作り味噌の仕込みは、冬でないといけません。
さらに言えば、冬でも最も寒さが厳しい「大寒」の時期がベストです。
なぜ、
詳しく解説します。この理由が分かれば、他の食品に対する意識や昔からあるものに対しての意識も変わってくると思います。
手作り味噌は、大寒に仕込むのがベストと言われる理由
味噌は、ご承知の通り、大豆を発酵させて作ります。
つまり、生き物(麹菌)の力を借りて熟成させていきますので、時期を選択するということは大切です。
そもそも大寒(だいかん)とは?
およそ1月20日頃にカレンダーに「大寒」と書かれています。
2019年の「大寒」は1月20日でした。
漢字の意味の通り、
という意味で、1月20日ごろ〜2月3日の節分までを「寒の内」と呼んだり、この期間全てを「大寒」と呼ぶ人もいます。
この大寒を過ぎると、寒さは少しずつ緩みながら春へと向かって行きます。
ただ、近年は地域によっては、大寒の時期でも思った様に気温が下がらず、味噌の仕込みを見送ることにしたという人も見られました。
なぜ、そこまで冷え込むことが大切なのか、詳しくみていきましょう。
大寒にまつわる言い伝えは様々ある
大寒と私たちの暮らしは深い関わりがあります。
ここでは、大寒にまつわる3つのものを紹介します。
一年で卵が最も美味しくなる時期が大寒
大寒に生まれた卵はとても貴重なもので「大寒卵」と呼ばれます。
この時期には、寒さのあまり鶏も卵をあまり産みません。
鶏は、寒さをしのぐために、水分の摂取を少なくし、たっぷりと餌を食べます。
そして、あまり卵を産まないために、大寒に生まれた卵はとても栄養価が高く、美味しいとされていたのです。
近年は、室内で飼育されている鶏がほとんどですから、屋外で飼育されている鶏から誕生した大寒卵はより貴重なものとなります。
もっとも水が綺麗だと言われる時期が大寒
古くから、「大寒の日に汲んだ水は腐らない」とか「寒の水は薬」などとも言われていました。
これは、本当に水が腐らないという意味ではなく、寒さのために、水中の雑菌が少なくなり、一年で最も水が澄んでいるという意味です。
水が綺麗であるということは、様々な食品を仕込むのに最適という事です。
水が最も綺麗な時期にいろいろな物を仕込む「寒仕込み」
お酒が好きな方なら一度は耳にした事がある言葉かも知れません。
「寒造り」とも呼ばれる場合もありますが、昔は空調設備が不十分だったために、最も雑菌が少ない寒い日にお酒を仕込み、ゆっくりと発酵させていたそうです。
ゆっくりと発酵をさせていくと、きめ細やかな味となり、「寒酒」と言われ親しまれてきました。
京都市伏見区などで酒造りに関わっている方は、現代でも「寒の水は大切にしている」と話をされていました。
大寒に味噌を仕込め!と言われる理由
こうして、「大寒」というものと、それにまつわる食品をみていくと、「大寒に味噌を仕込め!」と言われる理由がはっきりと見えてきたはずです。
- 水が綺麗な時期に大豆を炊く
- 空気中の雑菌が少ない時期に作業を行う
味噌は、発酵食品です。
大豆と塩と麹を混ぜ合わせて、半年から1年間もの間、寝かせるわけですから、味噌作りのスタート時点で、雑菌が多く混ざってしまうと、大豆は残念ながら腐敗への道を歩んでしまいます。
これを防ぐために、空気中に最も雑菌が少ないと言われる「大寒・寒の内」に味噌を仕込め!と言われるのです。
そんな疑問もあるわけですが、発酵とは不思議なもので、スタート時点で、うまく発酵への道に進むことができると、腐敗へ進むことは、よほどの事がない限りありません。
そして、寝かせる期間の長さによって味はどんどん変化して行きます。
こうした事も先人達は経験をしながら一つの知恵として、現代まで受け継いでくれたのです。
不思議な力さえも感じさせてくれる味噌ですが、麹菌には「酸素を嫌う」という性質もあります。
生き物なのに、なぜ酸素を嫌うのか? 麹菌の神秘については、地球誕生時の命が引き継がれた「麹菌」のちからも参考にしてください。
さらに、麹菌との暮らしを楽しんでいる方の様子は、自宅の室(むろ)で自家製麹づくりを楽しみながら暮らす母と2世帯の住まいでも紹介しています。
スーパーで売られている味噌は、安定感抜群の味!
こうして、味噌作りの基本となる部分を見ると、不思議な事があります。
自宅で仕込んだ味噌は、今月の味と3ヶ月後の味は、確かに違うけれども、スーパーで売られている味噌は、常温で置かれてにも関わらず、どの季節に購入しても同じ味ということです。
もちろん、商品として味噌を売り出している以上、コロコロと味が変わってしまうようでは良くありませんから当然のことの様にも感じられます。
この自然な変化を抑えるために、スーパーに常温で置いてある味噌は、発酵が進まないように「酒精(しゅせい)」が入れられているのです。
発酵アルコールのことで、食品添加物に指定されています。
手を消毒する時にアルコールをかけるのと同じようなものです。
味噌に酒精を入れる事で、発酵をとめるという役割をしているのです。発酵を止めてしまわないと、味噌が呼吸をし続け、袋が破裂したり、味がどんどん変化していってしまうために、一定の品質を保つために味噌に酒精が入っています。
その一方で、近年では「腸内細菌を増やす」という「菌活」がブームになっています。
ヤクルト1000が話題になり、価格が高騰したり、欠品が続いたことも記憶に新しい出来事です。
こうした傾向は、本来身近にあった菌が遠い存在になってきたことを表しているのではないでしょうか。
もちろん、現代社会で、全て昔ながらの暮らしにすることは困難ですが、一部だけでも、取り入れることで、私たちの体が求めるものは、自然に摂取できるようになります。
いつか、「味噌は買う時期によって味が違うよね」こんな会話が日常になる社会になればいいなぁと思っています。
ここまで、味噌についてウンチクを述べたのですが、実は、数年前、大豆10kg仕込んで、腐敗させてしまった事があります。
腐敗に進んでしまった大豆を前に何度も拝んで見ましたが、発酵には戻ってくれませんでした。
こんな経験をすると、「大寒に味噌を仕込め!」と先人達がいい伝えてきた言葉の意味が深く心に刺さるのです。