これから住まい作りを考えていきたいという方から、ご相談をいただくことがあります。
それぞれ、事情や要望は様々ですが、まとめると次の様な悩みになります。
- 最新の技術を存分に生かした機能的な住まいがいいのか?
- 従来からある技術・考え方を活かした住まいがいいのか?
どちらがいいのか?
この部分がある程度定まって来ないと、施工を考えるときにどのハウスメーカー・工務店にお願いしたらいいのか見えにくくなってしまいます。
そこで、
これがどういうことなのか詳しく紹介します。
2020年現在、西洋建築の方が人気がある様に思いますが、以前より日本建築的な住まいが増えてきたことも確かです。
しかも、今でも古民家を観て思わず購入してしまった…という方も案外多いものです。
この時代になぜ…と思われる方もいますが、近代的な住まいと古くからある日本の家屋では全く異なる発想で作られているために、「一目惚れ」の様なことも起きて当然なのです。
日本の家屋は内と外を敢えて曖昧にした作り【四季が心地いい】
日本は様々な国の文化を上手に取り入れながら、これまでいろんな文化を作ってきました。
ところが不思議なことに、靴を脱いで部屋に上がるということは、取り入れませんでした。
その代わりに、外でもない・内とも言い難い微妙な場所を確保しました。
広い玄関・土間があれば雨の日でも作業ができる
土間を現代的に言うと、「作業ができるほどの広い玄関」と言えるでしょう。
私の祖父の家もこの様な土間があったために、雨降りの日でも土間でよく遊んだものです。
もちろん、目的は子どもが遊ぶための場所ではなく、
- 畑で採れた野菜を並べる
- お餅つきなどの様な季節の行事をする
この様な作業場として活用された場所です。
作業は当然、土足で行いましたから、家屋の中でありながら外ですることを行う「内と外が区別しにくい曖昧な場所」です。
通路・作業場・雑談をする場として使われる縁側
写真の通り縁側は内か外か?と言われると何とも言えない場所です。
近所の方がふらっと来られた時は、大人達はここにみんなで座り、話をしていました。
また、「たくあん」になる大根がたくさん干されていた時期もありました。
さらに、部屋から部屋の移動にも縁側が使われていました。
現代でも料亭・旅館などで縁側を歩いて指定の部屋に移動するということはあるでしょう。
縁側も土間と同様、
という何ともいえない曖昧さがあります。
家全体の作りを見ても外から内へフェードインしている構造
古民家の場合、囲炉裏の有無は様々ですが、囲炉裏は部屋の中心にあるイメージが強いはずです。
当然、囲炉裏の周りで暴れることなく、座って食事を楽しむ風景が想像できます。
つまり、日本の家屋は
こんな構造をしているのです。
この様な構造を誰が思いついたのかは分かりませんが、住まいづくりのテーマとして見ると、非常に秀逸だと感じます。
なぜ、内と外を曖昧にした住まいを作ったのか?
- 農業をメインに生活を営んできたから
- 四季の変化と産業は深い関わりがあるから
過去の話の様にも見えますが、現代でもここから生まれた考え方はとても大切にされています。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
多くの人は農業をメインに生活を営んできたため外が気になる
現代でも、農業をされている方と話をすると
今日は午後から雨が降るよー。
でも、明日は良い天気になるからねー。
まず、天気の話からされます。
天気によって収穫高が大きく左右することもありますから、常に外の気配が感じられるようにしておくことは、重要だったのです。
四季の変化は楽しいと同時にたくさんの仕事を生み出すもの
地球全体で見ると、日本ほど四季の変化が豊かな地域はとても限られています。
日本からシンガポールに引っ越しをした知人は、
と言っていました。
四季があるからこそ様々な食文化・衣類の文化などが誕生します。
更に言えば、四季があるからこそ季節ごとにビジネスができたと言っても過言ではありません。
そのため、正式な文書には、現代でも時候の挨拶が必ず書かれています。
四季への感謝、仕事ができる喜びが時候の挨拶として現代にも受け継がれています。
現代、暮らし方は随分変わってきましたが、根底には、
- 四季の変化を感じ取りながら暮らす
- そのために内と外を曖昧にすることを好んだ
という考え方があることは、心のどこかに留めておきたいものです。
西洋の住まいは内と外がはっきりとし、テーマが日本と真逆
一方、近代的な住まい(西洋的な住まい)は、上の写真の住まいの様に、内と外がとてもはっきりとしています。
西洋の人々がこの様なスタイルの住まいを作った理由は、
です。
これによって生じた、日本の家屋と大きな違いを3点紹介します。
高断熱を維持するために窓が小さい
とにかく寒さを凌ぐことを重視した地域の人々は、分厚い壁を作ることにしました。
ただ、それでは真っ暗な空間になるために、窓を設けるという考え方をしたのです。
近年は、サッシの技術もかなり向上しましたが、断熱を考える時の基本は
ということを感覚的に理解し、実践していたのです。
この考え方が、継承されて、近代的な住まいの窓は随分小さくなってきています。
古民家の外へのつながり方と比較すると相当大きな違いがあると分かります。
住まい方(暮らし方)がとても明確化されている
住まいの使い方にも大きな違いがあります。
「どこで何をするか」が最初から決まっています。
- キッチン(料理を作る場所)
- ダイニングテーブル(料理を食べる場所)
- 寝室
- 子ども部屋 など
それぞれの場所に必要なものが揃っており、とても使いやすいようになっています。
囲炉裏とキッチンを比較すると、「曖昧さ」と「明確さ」がより具体的に感じられます。
静と動の位置関係が日本の家屋と真逆
西洋の寒さが厳しい地域の人々にとっては、何が何でも寒さの問題をクリアする必要があります。
それは、間取りにも反映されていて、玄関を入るととにかく一旦、内部(中心部)に向かって移動をし、それから、個々の活動をするというスタイルになっています。
例えば、次の様な間取りからも、とにかく一旦内部に入りたいという気持ちが見えます。
つまり、建物の中心部、ホール付近まで激しく動き、その後、それぞれの部屋で「静の時間」を過ごす作りになっています。
どちらの建て方が正しい・間違っているという訳ではありません。
それぞれの地域の住まいには、人々の想いや苦しみが存分に詰まっているということを忘れてはいけません。
このことを理解した上で、どの様な暮らしがしたいのか、担当の営業の方や設計担当者さんと話を進めていくと、より深みある家作りができます。
子育て世代の方々は、曖昧な場所を敢えて確保して欲しい
西洋的な発想の住まいの場合、どこで何をするかが非常に明確ですから、子育ても楽です。
ただ、近年よく言われる「空気が読める子・読めない子」の問題は、家の作りとも深い関わりがあるため、その点について触れておきます。
古民家の様な考え方だと、〇〇の部屋という様な用途の固定化は弱くなります。
例えば、縁側や広々した畳の部屋で子どもが思い切り遊んでも問題ありません。
けれども、時には縁側に柿や大根が吊るされる…ということがあります。
ということが起きます。
子どもからすると、昨日まで遊んでても叱られなかった場所なのに、今日からは叱られる場所になってしまうという理不尽なことが起きるのです。
でも、幼い頃からこの環境であれば「そういうもの・常識」として捉えることができます。
この「そういうもの・常識」の些細な積み重ねが「空気を読む」にも繋がるのです。
現代の住まいの様に、明確な子ども部屋があるとなかなかこの様な曖昧さは生まれません。
それでも、ちょっとした曖昧さも残したいと思い、我が家では、兄弟で一つの部屋を使う形にしています。
次男は、長男がテスト前の時は自分の部屋で寝ず、母親に叱られた日は、ちょっと拗ねて長男と一緒に寝るなんていう非常に曖昧な暮らし方をしていますが、そうした経験はたくさんあっていいと思っています。
便利さ・快適さだけではなく、こうしたところまで考えて、住まい作りをして行くと、より深く楽しい住まいができると信じています。
注文住宅の醍醐味は、「希望に合わせて広いリビングが作れる」「大きな収納も作れる」といった表面的な話に留まらず、暮らしから何を学ぶのか?というところまで考えられることなのです。