今日、あなたはご飯を食べたでしょうか。
改めてご飯と言うものを見ると、たくさんの不思議が詰まっているように思います。
例えば、多くの人が大好きなラーメン。
有名ラーメン店にはたくさんの人が開店前から並びます。
だからと言って、毎日ラーメンを食べることはできないのではないでしょうか。
ところが、ご飯に飽きるということはありません。
通常の生活をしていると1週間、毎日ご飯を食べていたなんてことは当然のこととして起きているはずです。
それくらい、私たちはご飯(お米)と深く関わりながら生活をしているのです。
今日は、半年先の予約も困難だと言われる名店、「銀座しのはら」に毎年お米を届けているという山元健之さんにお米について、たくさんお話をお聞きしましたので、その一部をご紹介します。
毎年、ベストなお米を届けたいけれどもベターなお米になるのです。
お米を育てていて一番ドキドキすることは、ご飯を食べる人がどう感じてくれるかなぁってことです。
例えば、銀座のしのはらさんにお米を届けていますが、しのはらさんに食べに行くためには、半年前から予約をしなくてはなりません。
きっと半年も待たされたお客様は、相当な気合いでお店に行かれると思うんです。
「滅多にいける店じゃないから、思い切り味わおう!」って。
そうしてまで行かれたお客様が、心から美味しいって思えるお米に今年も育っているだろうか…
そんなことを思うと、稲のことが心配で心配でたまらなかったのです。
今年の夏は暑過ぎましたしね。
2018年の夏は、これまでにない猛暑でした。
ここまで気温が高くなり、人間も過ごしにくいということは、確実に稲にとっても辛い環境です。
ですから、気温が低い夜のうちに田んぼに出かけ、この間にさらに水を入れ田んぼの温度をさらに下げてやることもしてきました。
稲の様子をみながら、できるだけのことはしてきましたが、これまでにない猛暑というのは、稲にとってどんな影響があるのか、データーがないわけですから予測も難しいのです。
その上、台風の連続アタックを受けました。
稲にとって、台風は大敵です。
収穫時期を迎えた稲が倒れてしまっても、それを起こして収穫したらいいのではないか?
台風の話をしているとこんなことを言われますが、倒れた稲からは収穫は諦めます。
一度、倒れてしまった稲穂は、地面の水分を吸収してしまいます。
簡単にいうとお米を研ぐ時にお米が給水するのと同じイメージです。
そうして、一度膨らんでしまったお米が、今度は晴天によって乾燥されていきます。
その結果、お米が割れてしまうなどと言った問題が起きるのです。
それでも、なんとか食べられるのではないか…
そう思って、何度も自分で炊いて食べてみましたが、やはり美味しくないのです。
稲を育てるということは、自然と付き合っていくことなんだと、最近強く感じます。
ここが、本当に苦しいところでもあるのです。
いい稲が育つ理想的な条件というのは、経験的に分かってきています。
けれども、自然がそう動いてくれないわけです。
こうすれば、ベストなお米になるだろう…と分かっているのに、その通りにできないところがもどかしいのです。
そんな話を、銀座しのはらさんとしているとこう言われました。
お米もワインと似たようなものじゃないかなぁ。
今年のワインの味は少し酸味があるとか…こんなことが当たり前の様に言われます。
それが普通ってことです。
今年のお米の味。来年のお米の味。
自然の中でできたものというのは、均一であることの方がおかしい。
だから、今年のお米の味で、料理をする人、食べる人がどう楽しむのかが重要じゃないだろうか。
新しいことに気付かされた瞬間でした。
多くのことを知識として知ってしまうと、そこにはめ込んでしまおうとしてしまい勝ちです。
けれど、それでは稲とも自然とも、ちゃんと付き合ったことにならない気がしたんです。
ベストなお米を届けることよりも、ベターなお米をベストに楽しんでもらえることの方が重要ではないだろうか…。
田んぼは、たくさんの事を僕に語ってくれます。
こんな話をすると「アホちゃうか?」という方もいらっしゃいますが、田んぼはたくさんのことを話してくれるんです。
- 少し、暑過ぎるから冷やして欲しい…
- 栄養が多すぎるから腹がもたれている…
田んぼに通ってやればやるほど、たくさんのことを話してくれるんです。
きっとそれは子育てだって同じだと思うんです。
赤ちゃんはしゃべることができないけれども、親子の間ではなんとなく意思の疎通ができている。
それと全く同じことなんです。
ただ、以前の僕は一つ大きなミスをしていたのです。
それは、稲が心配で心配でたまらなかった…ってことです。
心配ばかりされてきた子どもは、何事も心配してしまう様に育ちます。
ということは、稲も心配ばかりして育ててしまうと、どこか自信のない稲になってしまうのです。
自然は、必ずしも稲にとってベストな条件を提供してくれません。
それでも、うちの稲は耐えて、乗り越えるだけの強さがある。
そう信じてやる部分も重要だと思える様になってきたのです。
手を出してやる部分と信じてやる部分…。
全く子育てと一緒じゃないかなぁと思うわけです。
今年はいろいろな理由があり、彼らをさらに信じてみました。
肥料を例年よりグンっと減らしましたから、倉庫に肥料はたっぷりと残っているのです。
厳しい条件の中でも収穫を終えた今、振り返って見ると、ベストではないベターを楽しむという考え方はとても重要だと思えるのです。
自分たちだけがいいというお米の生産の仕方は避けていきたいなぁ…。
こだわったお米を生産していると、農薬の使用の賛否について意見を求められることもあります。
もちろん、使用しない方がいいに越したことはありません。
けれど、お米を育てたことがある方なら、農薬を使わずにお米を育てるのは至難の技だってこともわかるはずです。
田んぼの面積が広くなればなるほど、それは大変です。
けれども、農薬が使われていない田んぼにはたくさんの生命が溢れています。
鯉が泳ぎ、ミズスマシ・タガメ・ヤゴ…例を挙げればキリがないほどの生命で溢れているのです。
そして、生命が溢れている田んぼは、多々、問題は起こるものの、その中でもお互いが支え合っている様子もみられるのです。
そこから、僕たちが学ぶことがたくさんあるように思うのです。
全員が成績優秀・スポーツ万能で、先生のいうことをよく聞き、素直である。
そんなクラスは理想的かもしれませんが、大きな感動が生まれないのと似ている気がするのです。
やんちゃで、よくみんなに叱られてばかりの子どもがふとした瞬間に優しい側面を見せる…。
いつもはクールで、適切な判断をしている奴が時々、大きな失敗をして笑いを起こす…。
こうした中にいた方が楽しく、人は大きく成長するはずです。
そう考えた時に、田んぼも同じであって欲しいなぁなんて思うのです。
時々、悪さをする虫もいて悔しい思いをすることがありますが、生命が豊かな田んぼには、正義の味方も必ず存在するのです。
そして、いつも悪い奴だけれども、時にはいい仕事をしてくれる虫もいる。
田んぼと話をしながら、僕はこんなことが学べていることがとても楽しいのです。
一杯の茶碗のご飯から、大地を感じて欲しいから作り続けます。
今はまだ、小さな農家です。
それでも、こうした気持ちで育てたお米を「美味しい」と言ってくれて遠方からも注文してくださる方がいるのです。
もちろん、銀座しのはらさんをはじめ、いくつかの東京の名店と言われるお店の方々も、僕のお米でないとダメだと言ってくださることはとても嬉しいです。
また、お寿司屋さんも、もっと美味しいシャリをお客さんに提供したいからと言って、お米の炊き方の工夫を相談しに来てくださる方もいます。
そんな方々と話して感じることは、みんなが柔軟であるということです。
もちろん、お米の炊き方に基本というものはあるものの、銀座しのはらさんが言うように、お米は自然からいただく産物ですから、今年のお米、来年のお米と言う変化があって当然です。
また、お米を炊く季節によっても水温が異なります。
つまり、基本はあるものの絶対にベストになるマニュアルはないと言うことです。
これは、人の生き方を見ても同じではないでしょうか。
有名大学に進学し、誰もが羨ましいと言うような会社に就職したからと言って幸せだとは限りません。
人の考え方だって、成長とともにどんどん変化していくものです。
その変化を誰もが自由に認められるようになり、もう少し柔軟に生きられる社会になったらいいなぁ…なんて願いを込めて、僕は時々、お米の話や炊き方の話をしているのです。
たった一杯の茶碗のご飯からも誰もがこうしたことを感じる力はあるのです。
大地の力強さを感じ、そこから自分の生き方に活かせるところを一つでも見つけて欲しい…。
こう願っていますから、僕はお米を作り続けることができるのでしょう。
今はこうしてお米のことを何時間でも熱く語ってしまいますが、農家に生まれたことを何度も恨んだこともあるものです。
けれど、今はこうして自分の過去を振り返りながら、田んぼを風景を眺められるのは、とても幸せだなぁなんて思います。
Profile 山元健之
知る人ぞ知るお米「神麓(かむらのふもと)」の生産者。
主に関東エリアの老舗と言われる料理店にお米を納めている。
また、献立に応じたお米の炊き方などに精通しており、稲の成長について学びながら土鍋でご飯の炊き方が学べる会(神麓のご飯会)は、常に満席が続く。
また、熱い理念のある料理店には、献立に応じたご飯の炊き方を指導したり、一緒に研究をするコンサルも提供している。
お米「神麓」は期間限定でこちらのサイト(12月オープンの予定)から購入可能。