先日、子どもの為に「住まいの環境にはこだわりたい」という方から次の様な質問をいただきました。
熱心に住まいづくりの勉強をされていると感じた質問でした。
木造住宅の強さは接着剤にも左右される?【強く影響を受ける理由】に、接着剤の種類や性質をまとめていますが、今回は、集成材と接着剤の関係について限定して、詳しく見ていきましょう。
結 論
早速、詳しく見ていきましょう。
集成材は加工した木材なので品質が安定的
集成材VS無垢材といった議論をネット上でよく見かけますが、集成材の性質を知るには、
- 集成材に用いられる木の性質
- 接着剤の性質
- 接着をする際に配慮されている点
を知る必要があります。
ということです。
まずは、これらについて詳しく見ていきましょう。
集成材は無垢材と比較して品質が安定的
集成材を見れば分かりますが、薄い板が複数枚貼り合わせて1本の柱・梁が作られています。
【木造住宅の強さ】木材は乾燥させる程強いのか?で紹介していますが、木の性質は、乾燥の仕方・程度によって大きく異なります。
直感的にも分かりますが、丸太を乾燥させるよりも、集成材に使われるような小さな木片を乾燥させる方が圧倒的に簡単であり、時間もかかりません。
また、木の繊維の方向を考慮して貼り合わせることができるので、
があります。
大手ハウスメーカーが集成材を構造に用いるのは、品質を一定に保ちやすいためです。
無垢材の場合は、同じ「杉」を使ったにしても、やはり生き物ですが、若干の個体差が出てしまうものです。
では、集成材の方がいいのでは?という事になりそうですが、接着をすると言っても多くの問題をクリアしなくてはいけません。
接着をするために配慮しないといけないこと
木と木を接着するには、主に次の方法があります。
- 接着剤を塗って熱と圧力を加えて接着剤を硬化させる
- 接着剤を塗った後に熱を加えて接着材を硬化させる
いずれにしても、熱を加えないといけない場合が多いです。
【木造住宅の強さ】木材は乾燥させる程強いのか?で紹介している通り、貼り合わせる木材の乾燥が甘ければ、熱が加えられた時に、水分が一気に水蒸気になるために、割れが生じる可能性が高まります。
これを防ぐために、集成材の材料となる木片は、事前にも熱を加えて超カラカラの状態にさせなくてはいけません(含水率5〜10%程度)。
じゃあ、熱をあまり伝えない木の内部にどうやって熱を伝えるのか?
木は熱を伝えにくいものなので、集成材を作る場合、木の内部(接着剤付近)にどの様にして熱を伝えるのか?は大きな問題です。
現在は、主に次の2つの方法が採られています。
- アイロン方式(熱を表面から加えて内部に浸透させる)
- 電子レンジ方式(マイクロ波をあてて集成材内部を発熱させる)
つまり、集成材の場合、
- 貼り合わせる前(乾燥時)
- 貼り合わせた後
この2回は、高温にさらされているということです。
ここで紹介したことは、集成材を作る上で配慮されている極一部です。
木と木を貼り合わせると言っても、様々なことに配慮しながら集成材が作られているということを感じていただけたら幸いです。
【集成材の性質】接着の過程から見えてくる性質
集成材がどの様な過程で作られるのか、分かれば見えてくるものがあります。
- 接着剤が何層にも塗られている
- 木片が少なくとも2回、高温にさらされている
ということです。
これによって木がどの様な影響を受けるのか見れば、集成材の性質が見えてきます。
接着剤が木片に塗られているということは…
直感的にも分かることですが、無垢材と比較すると調湿効果が低くなります。
本来、木材は周りの空気の湿度と同じ状態(平衡状態)にしようとする性質があるために、湿度が高ければ、水分を吸おうとします。
当然、湿度が低ければ、水分を放出しようとしますが、接着剤が塗られてしまうとこの呼吸ができなくなってしまいます。
また、接着剤がしっかりと塗られているということは、化学物質過敏症・シックハウス・アトピーなどの問題を発症する可能性がどうしても高くなってしまいます。
住まいと化学物質については、【実例】空気清浄機の効果でシックハウスを抑える事ができるのか?の記事をお読みください。
木を高温にさらすということは…
本来、木は生き物です。
【木造住宅の強さ】木そのものの強さについて知る・構造より重要で紹介していますが、木は長い歴史の中で、より強く生きるために様々な工夫をしています。
驚く様な工夫を木はしていますが、60℃を超える様な温度は、彼らにとって想定外のことです。
高温で強制的に乾燥をさせると、下の写真の様な木の導管は壊れてしまいます。
大抵の集成材は、接着の特性も踏まえて2度も高温にさらされるために、調湿効果は下がってしまいます。
近年の住まいは、壁にしっかりと覆われ、その内部に柱や梁があるという状態なので、丁寧に施工をしないと壁の内部は蒸れやすくなってしまいます。
結露などの理由で、壁の内部の湿度が高くなってしまい、調湿されない状態が続くと、当然カビやダニが発生しやすくなります。
また、耐久性の問題があります。
人工的に高温で乾燥させた木材(KD材)の耐久性は、30〜50年とよく言われます。
集成材の場合は、高温乾燥させた木材+接着剤という構成になっており、理論上では接着強度が落ちることはないとされていますが、木材部分は劣化する可能性が考えられます。
集成材の耐久性について十分吟味したいところですが、構造用として集成材の使用の認可が下りたのが、1965年なので、実績としては、55年程度という事になってしまいます。
当然、この55年の間に改良が行われているので、耐久性も高くなっていると考えられますが、百年単位の耐久性については、検証できないというのが現状です。
今回は、集成材を接着する時の工程から集成材の課題を浮き彫りにするということで、この記事を書きましたが、冒頭でも触れたように集成材にも素晴らしいメリットはあります。
次に集成材の性質についてまとめておきます。
接着の工程も踏まえて集成材の性質を見た場合・まとめ
集成材の性質をまとめると次の様になります。
メリット | デメリット |
小さな木片を乾燥させ貼り合わせるために、乾燥の程度にバラツキが出にくい。 | 高温で木片を乾燥させることが多いために、内部の導管・細胞が破壊され、調湿効果を失う。 |
接着剤を用い、人工的に作るものなので、品質のバラツキが少ない。 | 接着剤を塗るために、化学物質過敏症・シックハウス・アトピーなどのリスクが高まる。 |
品質が安定しているので、大手の住宅メーカー・大手工務店も利用しやすい。 | 高温で乾燥させた木材の耐久性は短いために、集成材の木部の耐久性も短いと考えられる。 |
無垢材と比較すると若干コストが安い。 | 耐久性については、55年程度の実績しかない。 |
この様な性質が見えてくると、私たちが施工することはありませんが、「短期的(20〜30年程)に利用できる住まいであれば十分」で「健康上の問題も気にしない」というのであれば、集成材・合板を用いた住まいが、若干安価にはなります。
反対に、次世代の事を考慮し、健康上のことも意識していきたいというのであれば、無垢材を中心とした家づくりがいいということになります。
もちろん、無垢材がいいなぁって思うけれど、予算の問題があるの…。
なぜか、無垢材は超高価!という印象をもっている方が多い様です。
けれども、集成材にしても住まいを支える重要な役割を担っているために、細かな部分にまで配慮して作られているのです。
つまり、集成材を使った住まいだから格段に安くなるとはなかなか言えません。
実際に、私たちが無垢材をメインにして施工した住まいよりも集成材を使ったハウスメーカーさんの住まいの方が高いということもあります。
住まいというのは、家族・地域など様々な条件によって大きく変化するために、一概にこの素材だから高い・安いと言い切るのは難しいというのが正直なところです。
あまり先入観をもたずに様々な会社に問い合わせをするところから、住まいづくりはスタートすると私は考えています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。