新築やリフォームの施工に関わっていると、最近では「シックハウスが心配」という声をよく聞きます。
私も室内の空気にはこだわり過ぎというくらいの住まいを作っているために、こんな質問はよくいただきます。
- 最近、家にいると花粉症の季節でもないのに鼻水が止まらなかったり、涙が出ます。そして、外に出ても同じ様な状態が続くようになり、マスクが手放せません。室内の空気がやっぱり問題でしょうか。
- 引っ越しをしてから、子どもの肌が酷い状態になってアトピーの様になり、喘息の様な状態になることもあります。シックハウスかどうか分からないですが、空気清浄機で問題は解決できるのでしょうか。
これまでにも、似た様な状態のご家族からも相談を受け、新築やリフォームをしてきましたが、当然、大きな費用と時間が必要になります。
いずれは室内の空気がいい新しい住まいで生活したいけれども、急に新築やリフォームをするのは、なかなか困難です。
いますぐにでも解決できる策は空気清浄機を使うことですが、
という疑問があります。
結論
(買うならフィルター式のもの)
この理由について、
- 私がこれまで見てきたお客様の事例
- 空気清浄機の性能を分析した論文
を見ながら解説をしていきます。
シックハウスの原因はホルムアルデヒドなどの化学物質
シックハウスの原因は
- ビニルクロス
- フローリング
- 家具・カーテン など
に含まれている有害な化学物質が揮発して室内に蔓延することで起こります。
短期間で揮発が完了すればいいのですが、揮発完了までに10〜20年かかるために、とても厄介な問題です。
もう少し詳しくこの問題に迫りたい方は、以下の記事を参照してください。
販売されている空気清浄機の基本的な3つのスタイル
空気清浄機について調べると、聞きなれない言葉がたくさん出てきます。
- プラズマクラスター
- ナノイー
- 光速ストリーマ
- HEPAフィルター など
とても複雑そうに見えますが、基本的に空気清浄機は次の3種類の方法で室内の空気を綺麗にしようとしていることを知っておけば十分です。
- フィルターを使って空気を綺麗にする
- 静電気を使って空気を綺麗にする
- イオンを飛ばして空気を綺麗にする
それぞれの特徴を解説します。
フィルター式の空気清浄機
空気を循環させて、フィルターを通過した時に不要なものを除去する方法。
一言で言えば、理科の実験でいう濾過のスタイルで空気を綺麗にしていきます。
HEPAフィルターが搭載された空気清浄機は、このスタイルの代表的な商品です。
ところが、
そもそも、室内の化学物質は粒子なのかなぁ?
こんな疑問があると思います。
後に、詳しく研究をされた結果とあわせて詳しく解説します。
静電気を使って空気を綺麗にする方式の空気清浄機
静電気にはものを引きつける力があります。
下敷きを頭の上でこすると髪の毛が下敷きに引き寄せられる性質を上手に活用して、空気を綺麗にしようとする方式です。
帯電というと難しいですが、磁石で考えると分かりやすいです。
フィルターを通過するときにホコリを強制的にS極にして、N極のフィルターを準備すれば、どんどんホコリが集まってくるという仕組みです。
この効果についての後に詳しく解説します。
イオンの力で空気を綺麗にする方式の空気清浄機
最近(2020年)でも、マイナスイオンの力で…という言葉を聞きます。
これは、単純に言えば、先ほど紹介した「静電気を使って綺麗にする空気清浄機」と基本的な考え方は同じです。
異なる点は、「先にマイナスの電子を部屋に撒く」という部分です。
これまでは、空気清浄機の内部に入ってきた空気の処理が行われていましたが、高圧放電をして、室内のホコリをマイナスに帯電させて、ホコリなどを回収する仕組みです。
一見、最新の技術で格好いい名前がついている商品も多いのですが、この形式のものは問題も多く、私は推奨していません。
人にも得意・不得意があるように、空気清浄機にも得意・不得意があります。
研究機関のデータと私が直接関わったお客様の体験を合わせながら、更に空気清浄機の性能を詳しく見ていきましょう。
空気清浄機はどの程度シックハウスに有効か?
空気清浄機の性能を評価するのは、とても難しいです。
理由は、
一般的な住まいの場合、室内に存在する有害な物質(VOC)は20種類以上もあるが、メーカーが発表している性能試験では、その一部の物質しかデータが公開されていない。
ためです。
そこで、ここでは、室内に存在する化学物質22成分について分析をした、「家庭用空気清浄機のVOC除去性能の実態解明」という研究の結果をもとに、性能について解説します。
まず、最も簡単なところから。
イオン式空気清浄機には注意が必要
イオン式空気清浄機の性能は、イメージと違うなどの問題が多々発生しています。
そこで、東京都生活文化局がイオン式空気清浄機5種類を用いて実験を行ったところ、集じん性能、脱臭性能がフィルター式のものより大きく下回るという結果になりました。
また、空気清浄機から発生するオゾンを測定したところ基準値より多くオゾンが排出されている機種もありました。
詳しくは、
商品テスト結果「イオン式空気清浄機の性能及び安全性」をご覧ください。
現在は、イオン式空気清浄機も改善されている可能性もあります。
もし、購入を検討される場合は、この様なこともあったということも踏まえた上で検討をされた方がいいと思います。
静電気を使って空気を綺麗にする方式には期待できない
上のグラフは、静電気式の空気清浄機の運転結果です。
15分間運転したにも関わらず、TVOC(トータルVOC・簡単にいうと揮発している化学物質のトータル量)が変化していないことが分かります。
研究「家庭用空気清浄機のVOC除去性能の実態解明」にもこの様に書かれています。
静電集塵式空気清浄機の場合、相当換気量はほとんどの物質でゼロに等しく、ホルム アルデヒドの場合と同様に除去能力はない 。
家庭用空気清浄機のVOC除去性能の実態解明より
つまり、残念ながらシックハウスの問題を改善したいという意図で、静電気式の空気清浄機を利用しても、効果は期待できないと言えます。
フィルター式の空気清浄機が最も有効
静電気式のものとは違い、フィルター式の空気清浄機では、TVOCが減少していることが分かります。
活性炭使用量の少ない機種では、効果が小さかったために、活性炭が有効だろうということになります。
ただ、同じフィルター式の空気清浄機であっても機種によって、クリーンにできる成分には違いが見られたという結果になっています。
こうしたことを踏まえると、シックハウスの問題を軽減させるには、次の様な空気清浄機が有効だと言えます。
- フィルター式の空気清浄機
- 活性炭素がたっぷりと使用されている空気清浄機
具体的には、
Stadler Form(スタドラーフォーム) Roger 空気清浄機
が上の条件を満たしつつ、構造がシンプルでいいと思います。
様々な機能がついている方がお得感があるかもしれませんが、案外、いいものはシンプルなものです。
ただ、長年、建築に関わっている私としては、優れた空気清浄機でも、補助的な役割を担うものとして理解してください。
その理由を説明します。
シックハウスに悩まされた方が空気清浄機を利用した結果
お子さんがシックハウスに苦しみ、大変な状況になったYさんも何とかしようと思い、性能がいいと言われる空気清浄機を3台も購入されました。
それについて、Yさんはこんな話をされていました。
確かに、空気清浄機があると空気が少し澄んでいるかなぁという印象はありました。
ところが、残念ながらシックハウスに苦しむうちの子どもの様子が改善されることはありませんでした。
空気清浄機の性能は、様々なテスト機関で素晴らしいと評価されたものを選んでいたのですが、そもそも大きな間違いをしていました。
新建材で住まいを作った場合、床・壁・天井の四方八方から有害な物質(VOC)が常に攻めてくるわけです。
どんなに空気清浄機の性能がよくても、空気清浄機が空気を綺麗にする前に、人間が有害な化学物質を吸っているという事を見落としていました。
私たちが現場で、合板や一般的なビニルクロスを用いた施工をする場合、マスクを付けるのが普通です。
また、取り扱う建材によっては、換気を十分にしながら施工をしないといけないものもあります。
そんな状態で私たちが作業を行った数週間後に、お客様に新しい住まいとしてこれまでは引き渡してきたのです。
現在では、それではお客様は快適な暮らしができないということに気付き、その様な建材は使用しないことにしていますが。
まとめ
以前の田舎町では、水道に浄水器をつけるなんて考えられなかったですが、現在では浄水器を取り付けるのが当たり前になりました。
さらには、空気清浄機も当たり前の社会になりました。
もちろんこうした技術が進歩し、素晴らしい除去ツールが開発されるのも素晴らしいことですが、本当はこの様なツールが不要な社会が理想だと思っています。
私たちは、工務店ですから家づくりを通してしか理想に向かうことしかできません。
でも、住まいを通して、多くの方が空気清浄機の不要な社会の良さを感じることができれば、理想へ一歩近づけると信じています。
シックハウスの対策と空気清浄機
- 空気清浄機でシックハウスを完全に対策することは難しいが、補助的な役割は期待できる。
- シックハウスの原因となる化学物質(VOC)を減らす目的で空気清浄機をもちいるのならフィルター式のものがベスト。
- イオン式のものはオゾンが多く発生するものもあるために利用には注意が必要。
- 空気清浄機の性能を調べる実験は、一定量の化学物質の中で行われるが、一般の住まいの場合は、化学物質は揮発し続けるために実験とは条件が異なることは覚えておきたい。
室内の空気環境について悩まれている場合、リフォームや新築の有無に限らず、お問い合わせよりメッセージをお送りください。
私達が経験したことなどを踏まえて、回答させていただきます。
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