新築やリノベーションをするなら、丈夫な住まいの方が良いことは明らかです。
ただ、木造住宅の強さについて素材から見ていくと、絶対に見落とせないのが、接着剤の存在です。
極論的な言い方になりますが、
と言ってもいいほど、接着剤がたくさん使用されています。
また、この接着剤の成分が揮発することによって、頭痛・吐き気などの症状が発症するという問題(シックハウス症候群)もありました。
2021年シックハウス症候群という名称を聞く機会は減りましたが、現在は、化学物質過敏症で悩まされている方は増加の一方です。
化学物質過敏症の原因は、無数にあるとされていますが、住まいに使われている接着剤とも深い関わりがあることも確かです。
ですから、住まいを建てるのであれば、接着剤の性質について理解することはとても大切です。
そこで、今回は、よく質問をいただく次の内容を中心に解説します。
- 接着剤はどんなところに多く使われているのか?
- 接着剤の強度・耐久性はどのくらいなのか?
- 人に害のない接着剤はあるのか?
これらについて、理解しておくと、住まいづくりの際に使う材料の性質も随分見えてきます。
少なくとも、「新築をしたけれども、どうも体調が優れない」という状態は、避けたいものです。
木造住宅のどの様なところで接着剤が使われているのか?
改めてあなたの部屋を見まわしてみましょう。
一般的な住まいの場合、
- 壁のビニルクロスの向こう側(背面)
- 天井のビニルクロスの向こう側(背面)
- 床フローリングの内部
つまり、私たちは、接着剤に囲まれて生活をしていることになります。
もちろん、これはパッと見える部分を挙げただけですが、近年の住宅には、下の写真の様な集成材が柱として利用されていることが多いので、ここにも接着剤が使われていることが分かります。
冒頭で、住まいは接着剤が支えていると言ったのも十分理解できるのではないでしょうか。
そうなると、細かい化学的な話は抜きにしても、接着剤についてある程度理解しておくことはとても大切だということに気付かされます。
接着剤にはどの様な種類があるのか?
接着剤というと、一般には、工作などに使用する「木工用ボンド」とか「アロンアルファー」の様な瞬間接着剤をイメージする人も多いでしょう。
もちろん、これらも接着剤ですが、工業的にみると多くの接着剤があり、概ね下の図の様に分類することができます。
ここでは、合板・集成材などの様に木と木を接着するという部分にフォーカスして、更に詳しく見ていきます。
接着剤と熱との関係
熱可塑性(ねつかそせい)とは、熱を再度加えるともう一度柔らかくなる性質をもった接着剤です。もちろん、住まいを支える部分、構造用合板や集成材には、利用することができません。
熱硬化性(ねつこうかせい)とは、一旦、硬化すると熱を加えても元には戻りません。当然、住まいの構造に関わる部分にはこの熱硬化性の接着剤が使われています。
熱硬化性の接着剤の利用の現状
一言で熱硬化性の接着剤と言っても様々な種類があります。
ここでは、接着剤の性質を知るのに、割と良く使われている「ユリア樹脂接着剤」と「フェノール樹脂系接着剤」について触れたいと思います。
ユリア樹脂接着剤について
木材の加工には「ユリア樹脂接着剤」というものが、少し前までは最もよく利用されていました。
熱硬化性で、価格が安く、無色、作業で扱いやすいという優れものですが、近年は次の様なデメリットがあるために利用が減ってきています。
- ホルムアルデヒドを放出しやすい
- 水分に弱い
- 硬化する時に収縮する(製品に小さなクラックが入りやすい)
特にホルムアルデヒドについては、健康への影響も大きいために、家づくりでは利用の制限があります。
もちろん、この様な課題点があれば、住まいの構造に利用できないことは明らかです。
現在は、家具や化粧用(フローリングの表面シートなど)を貼るのに利用されているのが現状です。
えっ!家具やフローリングに使われているのも問題じゃないの?
室内は水分の問題は心配ないけど、ホルムアルデヒドは大問題でしょ!
確かにその通り。
ただ、現状の法律では、家具にはホルムアルデヒドの発散量の規制がないんだ。
でも、それによって苦しんできた方々を見てきたから、ウチでは細か過ぎるといわれるくらいチェックをしているけどね。
最近では、ホルムアルデヒドの発散量を抑える、ホルマリンキャッチャーと呼ばれるものを混ぜてあるケースも増えてきていますが、効果の持続性が分かりません。
いずれにしても、良くないものを混ぜたから、さらに何かを混ぜて防ごう…というのは、かなり長い目で確認しないと、「安心・安全」というのは難しいと思っています。
この様に接着剤の過去の課題を見ると、接着剤には次のことが求められることが分かります。
- 化学的な物質の発散量が少ないこと。
- 熱・水にも強いこと。
現在は、これらの条件をクリアした接着剤が住まいの構造に関わる部分にはたくさん使われています。
フェノール樹脂接着剤
以前によく使われた、ユリア樹脂接着剤の問題点を克服したものがフェノール樹脂接着剤です。
では、フェノール樹脂接着剤を使えば、オールOKという風に見えるかもしれませんが、新たな問題点があります。
- 比較的高価
- 接着には高熱が必要
接着をする際に高熱が必要だということは、熱を加えた時に発生する水蒸気を木材が吸収するだけの余裕を事前に作っておく必要があります。
つまり、木材に含まれる水分量(含水率)をかなり低くしておかなければなりません。
【木造住宅の強さ】木材は乾燥させる程強いのか?で紹介している通り、木材に含まれる水分量をかなり減らすことは、意外と大変なことです。
ここでは、2つの接着剤について紹介しましたが、接着剤の技術の開発も非常に奥深く、全ての面において、問題ないというものを人工的作ることは困難だということが感じられたと思います。
接着剤の耐久性はどのくらいなのか?
一旦、硬化すると二度と元に戻らない熱硬化性の接着剤の場合、理論的には、二度と剥がれないということになります。
とは言っても、自然界は長い年月をかけて様々なものを分解しようとします。
その様なことも踏まえると、
ということになります。
現在、集成材によく使われている接着剤は「イソシアネート系接着剤」というものですが、この接着剤材住まいを支える構造部分に使用しても良いと認可されたのが1990年代のことです。
まだ30年弱の歴史しかないために、理論的には100年くらいは大丈夫だと思いますが、実績がないために次世代も使うことを視野にいれた住まいを考えるのなら無垢材の方が安心だとお伝えしています。
でも、無垢の構造の住まいってめちゃくちゃ高価じゃないの?
よくそういう事を言われるけれども、驚くほどの大差はないんだ。
無垢の方が安いよとまでは言えないけれどね。
たかが接着剤かもしれませんが、とても重要な役割を果たし、接着剤がもたらす問題点を克服するためにさらに手間・工夫が分かったかと思います。
当然、集成材を作るにもそれなりのコストが必要だということです。
実際に無垢の構造と集成材の構造と費用がどのくらい違うのか気になる場合は、ご相談いただけたらと思います。
まだまだ接着剤については、知っておいた方がいいことがありますので、また改めて記事を書こうと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。
人間が知恵と経験を振り絞ってもなかなか解決できないことを自然は、すでに実現させているというのにただただ感心するばかりです。